膵臓がんステージ4bと告知されてから緩和ケアを選び、最期のときを迎えるまでの著者の日々が綴られている。
淡々と綴られているような印象だったから自分もそのまま受け止められるかなと思ったが、淡々と綴られているからこそ、まるで自分がそれをまるごと体験しているような気持ちにさせられ、苦しくなった。読み始めてすぐに泣いてしまう。その一方、ふたりきりの「無人島」で一緒に過ごす夫や、その無人島に少しずつ迎え入れた親しい人たちへの著者の愛情や思いやりにもふれてあたたかい気持ちになった。そしてまた泣いてしまう。じわじわと、でも確実に体調が悪化していき、当然やりきれない思いや不安に埋め尽くされているであろう日々の中で、周囲の人を気遣うことのできる著者はなんと強く優しいのだろう。
その日々は、私が強迫症でほとんど何もできなくなり、夫に面倒をみてもらっていた約2年前のことと少しだけ重なった。私は余命を宣告されていたわけではなかったし、言葉をお借りするのも申し訳ないのだが、私たちも、あれは無人島にいたのだ、と思う。無人島のふたりだったのだと思う。しかも、私は主に感染症に対する恐怖のため病院に行くことを拒み、例えば人を頼って夫以外の誰かを家に入れることなども極度に恐れていたため、夫は、荒れる私と私ができないことをすべて引き受けひとりで戦っていた。当時はどうにかしようと精一杯のことをしていたつもりだったが、私には著者のような強さや優しさが欠けていたと思う。
著者のような場合を除いて、通常はいつ死ぬかなんてわからない。
単なる読者である私でさえ、本のページがどんどん減っていくのが怖かった。余命宣告を受けながら、ここまで書き続けた著者の強さに驚く。さらにそれを本にしてこうして私たちに届けてくださった。読んでいて救われる思いがしたし、死と隣り合わせにある生、日常についても考えることができた。大げさにでも控えめにでもなく、思うことをありのままに淡々と綴ってくださったことに感謝したい。